第三十九話:お百度参り
語り手:円大海
つづき
お百度参りって知ってる?
同じところに百回お参りすると、願いが叶うっていう民間信仰。
百回もお参りするのって、すごい執念だよね。
それくらいなら努力すれば、って…わかってないなあ。
自分じゃかなえられない願いだから、神様に頼むんでしょ。
ボクの知り合いに、園部って男がいた。
チャラくて浮ついてて女ったらしで浮気性で…ちょっと、そこでボクのこと見るのやめてくれる?
ま、そういう奴だったんだ。
ただね、園部はなんていうかなあ…女好きっていうより、きれいな子をとっかえひっかえできる自分に酔ってた、って感じだったかな。
あんまり女の子を大事にしてなかった気がする。ボクとしては、そういうのどうかと思うんだけど…まあ、そこがいいって奇特な子も世の中には多いんでね。
あと、真面目そうな子もよくひっかかってたなあ。
ああいうの、「私がなんとかしなくちゃ」って思うんだろうね。
もしもそういうタイプがキミの周りにいるなら言ってあげて。
「そういう奴は誰が何してもダメだから、そうなったんだよ」って。
それくらいならいっそボクと…あ、そういう話じゃなかったっけ。
えーっとね、園部の恋人の一人に、瑞枝ちゃんって子がいたんだ。真面目そうな子だったよ。
真面目な子だったからかなぁ…園部がいろんな女の子と浮気しまくってるのがショックだったらしくてね。
それでケンカになったみたい。
園部は「そんなに嫌なら別れたらいいだろ」って言ったんだけど、瑞枝ちゃんはどうしても園部と別れたくはなかったから、文句を言うのをやめたみたい。
でも、やっぱり浮気は許せない。自分だけを見てほしい。
瑞枝ちゃんはそう思ったけど、それが無理なのも知ってた。園部の奴は、救いようがないほどの浮気性だからね。
どうしようもないことなら、諦めてしまうほかないけれど…瑞枝ちゃんは諦められなかった。
だから、神頼みをすることにしたんだ。
瑞枝ちゃんの家の近くには神社があって、小さい頃からよくお参りに行ってたんだって。
それで、その神社にお百度参りに行くことにしたんだ。
毎晩、毎晩、園部が自分だけのものになりますようにって。
健気だよねえ。
でも、相手はどうしようもない男だったんだよ。
どうやって耳に入れたのか、園部は瑞枝ちゃんがお百度参りしてるらしい、って話を聞いたんだ。
それを聞いて、あいつはまっさきに「瑞枝が俺を呪い殺そうとしてる」って思ったらしいんだよね。
まあ呪われるようなことをしてる自覚はあったみたいだね。
で、ここがほんとにバカなんだけど、「やられる前にやってやる!」って考えたんだよ。
っていうかその前に確かめろよ、って話なんだけどね。たぶんあいつ、脳みその代わりにプリンでもつめてたんじゃないかな。
ある夜、園部は瑞枝ちゃんが通っている神社の近くで待ち伏せした。神社から出てきたところを、ひと思いにやってしまおうとしたんだろうね。
その日のお参りを終えた瑞枝ちゃんはどこか浮かれたように神社から出てきた。軽い足取りで家に向かう瑞枝ちゃんを…園部は、後ろから刺した。
どこまでも救えない男だね。
あまりの衝撃に何が何やらわからないまま振り返ろうとした瑞枝ちゃんをもう一度刺して、園部はその場から逃げた。
これで大丈夫、これでもう大丈夫。
人を殺した高揚感と、瑞枝ちゃんから解放された安心感で、奴も周りが見えていなかった。
突っ込んできた車に気付かずに、そのままはねられてしまったんだ。
すぐに騒然となって、救急車が呼ばれた。
でも、まあ手遅れでね。懸命な治療が為されたんだけど、朝まで持たずに園部は死んでしまった。
そして偶然にも、同じ病院に瑞枝ちゃんが運ばれてたんだよ。帰宅途中のサラリーマンに発見されてね。でも、瑞枝ちゃんも治療の甲斐なく亡くなってしまった。
奇しくも、二人が亡くなった時間はぴったり同じだったそうだよ。
ボクが聞いた話じゃ、瑞枝ちゃんは三か月以上前からその神社に通ってるって話だった。
あの夜瑞枝ちゃんが浮かれていたのは…ひょっとして、百度目のお参りを終えたからかもね。
そして願いどおり…あの世で園部を独り占めしてるのかな?